良い…と思ったらぜひ押してやってください(連打大歓迎)
2023年10月1日 この範囲を時系列順で読む
いいねありがとうございます~!ぱちぱち押していただけると嬉しいですね…
2023年9月30日 この範囲を時系列順で読む
「大脱走」4・5話、イラストを加筆修正してアップしました。あまり変わらないかもしれませんがこだわりました。
ぜひ見てください~!
https://roadsend.xxxx.jp/col-greatescape...
ぜひ見てください~!
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2023年9月25日 この範囲を時系列順で読む
原田武『インセスト幻想―人類最後のタブー』読了
★アナイス・ニン『インセスト』関連で手に取った記憶ある。「タブー」なわりに文学には頻出する印象あった。
★フランス文学研究者の研究書。研究書というより、知っているインセスト文学や物語全般、フィクションとノンフィクションのタイトルを羅列してちょいちょい考察を差し込んでいくスタイルだった。
★印象に残ったのはトピックのタイトル「インセストは死の匂い」。
★森崎和江が長崎の列島の先のほうにあるとある島を訪れ、その島の人びとは島原の人から差別を受けていたので遠方での結婚が出来なかった、その現状を彼女が形容して曰く「”おくに”はここで極まっていた」だったことを思い出した。あるいはトム・リドルの母方の血とか。「(略)同じ血を分けた民族や国民に対する狂信的な熱愛のうちに、ヒトラーのインセスト的性格を認める」(p186)。また『私の男』のなかの台詞「身内しか愛せない人間は、結局、自分しか愛せないのと同じだ。 利己的で、反社会的なそれらは、豚みたいに生きていくしかないんだ。 食う物だって…豚の餌だ」。
→ある種のフランス文学的ともいえる個人-個人間での「幻想」だけではなく、上記方面でも掘ってみたら興味深かかったかもしれない。
★近親結婚の多かったエジプト王室に言及し、エジプト美術にある「一種空虚な永遠的な静寂感」(片岡啓治の言葉の引用)との因果関係を示していたが、「空虚」「永遠的」「静寂感」あるいは停滞、不変……的なもの、にっちもさっちも行かない「全く動かない」感じ
→それこそがいわゆる『あなたたちの天国』や『影の獄にて』で言及のある「地獄」概念では、というとりとめのない思念に捉われ、それらは散っていった
★「死とは、今の自我を更新できなくなることである。天国も地獄も、来世にあるのではない。地獄とは押しとどめられた時間。風と星の運動に加わるのを拒絶することである」『影の獄にて』
★「今日の現実は明日また選択し改善していくことのできるという可能性があってこそのもの、たとえ今日の現実がどんなに満足で幸福なものであっても、そこに明日のふたたびの選択が前提とされていないならば、その現実は誰にとっても天国ではありえないのです。選択と変化が前提とされていない生涯不変の天国など、むしろ耐えがたい地獄にすぎません」『あなたたちの天国』
★アナイス・ニン『インセスト』関連で手に取った記憶ある。「タブー」なわりに文学には頻出する印象あった。
★フランス文学研究者の研究書。研究書というより、知っているインセスト文学や物語全般、フィクションとノンフィクションのタイトルを羅列してちょいちょい考察を差し込んでいくスタイルだった。
★印象に残ったのはトピックのタイトル「インセストは死の匂い」。
★森崎和江が長崎の列島の先のほうにあるとある島を訪れ、その島の人びとは島原の人から差別を受けていたので遠方での結婚が出来なかった、その現状を彼女が形容して曰く「”おくに”はここで極まっていた」だったことを思い出した。あるいはトム・リドルの母方の血とか。「(略)同じ血を分けた民族や国民に対する狂信的な熱愛のうちに、ヒトラーのインセスト的性格を認める」(p186)。また『私の男』のなかの台詞「身内しか愛せない人間は、結局、自分しか愛せないのと同じだ。 利己的で、反社会的なそれらは、豚みたいに生きていくしかないんだ。 食う物だって…豚の餌だ」。
→ある種のフランス文学的ともいえる個人-個人間での「幻想」だけではなく、上記方面でも掘ってみたら興味深かかったかもしれない。
★近親結婚の多かったエジプト王室に言及し、エジプト美術にある「一種空虚な永遠的な静寂感」(片岡啓治の言葉の引用)との因果関係を示していたが、「空虚」「永遠的」「静寂感」あるいは停滞、不変……的なもの、にっちもさっちも行かない「全く動かない」感じ
→それこそがいわゆる『あなたたちの天国』や『影の獄にて』で言及のある「地獄」概念では、というとりとめのない思念に捉われ、それらは散っていった
★「死とは、今の自我を更新できなくなることである。天国も地獄も、来世にあるのではない。地獄とは押しとどめられた時間。風と星の運動に加わるのを拒絶することである」『影の獄にて』
★「今日の現実は明日また選択し改善していくことのできるという可能性があってこそのもの、たとえ今日の現実がどんなに満足で幸福なものであっても、そこに明日のふたたびの選択が前提とされていないならば、その現実は誰にとっても天国ではありえないのです。選択と変化が前提とされていない生涯不変の天国など、むしろ耐えがたい地獄にすぎません」『あなたたちの天国』
2023年9月24日 この範囲を時系列順で読む
三井三池鉱山ほどあからさまではないがじんわりと影がある富岡製糸場(一時期三井時代がある)だったら良いよね(業からは逃げられないのだ…)。
不思議なところに建っていると思ったけれど、それに対する言及もあったのが印象深かった。
不思議なところに建っていると思ったけれど、それに対する言及もあったのが印象深かった。
今井幹夫『富岡製糸場と絹産業遺産群』
★生糸輸出で獲得した外貨によって軍需品や重工業製品を輸入する体制が出来、「生糸が軍艦をつくる」とまで言われた、製糸業が富国強兵に大きく貢献したという指摘(近代の企業・産業の業を感じる…)
★第二次大戦が近づき日本が世界から孤立するにつれて、日本の生糸は存在価値が下がっていった。戦時下では軍需工場としての一面もあった(落下傘の紐)。
★製糸業のお雇い外国人であるフランス人は「生き血をすする」という事実無根の風評被害(赤ワインの誤認?)があり、はじめは女工集めに苦労した。
★生糸輸出で獲得した外貨によって軍需品や重工業製品を輸入する体制が出来、「生糸が軍艦をつくる」とまで言われた、製糸業が富国強兵に大きく貢献したという指摘(近代の企業・産業の業を感じる…)
★第二次大戦が近づき日本が世界から孤立するにつれて、日本の生糸は存在価値が下がっていった。戦時下では軍需工場としての一面もあった(落下傘の紐)。
★製糸業のお雇い外国人であるフランス人は「生き血をすする」という事実無根の風評被害(赤ワインの誤認?)があり、はじめは女工集めに苦労した。
2023年9月21日 この範囲を時系列順で読む
Twitterはfeather(非公式のアプリ)に一時期お世話になっていたのですが、マストドンにもfeatherができたと聞いて導入してみました。サイコーの再会だった。
2023年9月20日 この範囲を時系列順で読む
ここの使い方がTwitterみたいになってきてとても嬉しいです
そもそも物語に救われるのも金や読書バリアフリーが必要だって考えた事がなかった 『ハンチバック』も詰んだままだ
私のことですね(救われたのは事実なので…)
物語や本や「それらに救われたこと」をまるで何かの神話、あるいは運命論みたいに語る人たちは、なにかの優越感と選民思想とを時折滲ませるときがある気がしていて、そこは現実を弁えていきたい。(先ほどの投稿の方たちのことではないが……)
ところで「いくつもの異なった物語を経過して」いる私は「フィクションと実際の現実とのあいだに引かれている一線を、自然に見つけだすことができ」ているのだろうか?とは思う
オウム真理教に帰依した何人かの人々にインタビューしたとき、僕は彼ら全員にひとつ共通の質問をした。「あなたは思春期に小説を熱心に読みましたか?」。答えはだいたい決まっていた。ノーだ。
彼らは物語というものの成り立ち方を十分に理解していなかったかもしれない。ご存じのように、いくつもの異なった物語を経過してきた人間には、フィクションと実際の現実とのあいだに引かれている一線を、自然に見つけだすことができる。その上で「これは良い物語だ」「これはあまり良くない物語だ」と判断することができる。
/村上春樹「東京の地下のブラック・マジック」『村上春樹雑文集』
彼らは物語というものの成り立ち方を十分に理解していなかったかもしれない。ご存じのように、いくつもの異なった物語を経過してきた人間には、フィクションと実際の現実とのあいだに引かれている一線を、自然に見つけだすことができる。その上で「これは良い物語だ」「これはあまり良くない物語だ」と判断することができる。
/村上春樹「東京の地下のブラック・マジック」『村上春樹雑文集』
村上春樹(ここではだいたい呼び捨て)といえば村上春樹アンチが有名
という印象しかない作家だったけど なぜか最近気になる エッセイや翻訳だけでなく彼自身の小説も読んでみよう 『ノルウェイの森』は読みました
という印象しかない作家だったけど なぜか最近気になる エッセイや翻訳だけでなく彼自身の小説も読んでみよう 『ノルウェイの森』は読みました
絵を描きたくなる欲求は絵を見たときに生まれるのだな…と改めて気づいた
神保町ブックフェスティバルの日程が決まりましたね!わくわく
いいねありがとうございます~
2023年9月19日 この範囲を時系列順で読む
『大脱走 中』原稿がまあまあ進んだ やった~
サ終したらしんでしまうので広報として投稿しておきます
アドオンを入れれば右クリックだけで保存できるのも良いです
Eagleという台湾製のデータ整理のアプリケーションがとても便利で好きです
『中城ふみ子全歌集』の中でとりわけ印象的だった短歌の一つ「酔へばソフアに眠るてふ手紙に乱されつつをれば花曇りの夜となるらし」の「手紙」は中井英夫との往復書簡のことだったと知って興奮している
中城ふみ子の短歌、挫折した恋や「すでにもう無きもの」を詠ったものが多い気がしていて、そしてこの短歌はその両方ではないので 印象的なのだと思う
中城ふみ子の短歌、挫折した恋や「すでにもう無きもの」を詠ったものが多い気がしていて、そしてこの短歌はその両方ではないので 印象的なのだと思う
2023年9月18日 この範囲を時系列順で読む
いしかわゆき『書く習慣』読んでいます。ありがちなHOW TO 本なのだけど、それな~と思う技法(「いつか書くは一生書かないので今書け」など)もあれば、なんとなく私が無意識でやっていたものを改めて文章にして提示していてこちらがドキッとしたりする技法(「アウトプットできない時はインプットが足りないのでは?」「『時間を作る』というのは無駄な時間を削ること」)もあり、読んでいてためになります。
あと読みやすくて良い。基礎編なHOW TO本なのもあるし、文章を書くことの本なのでその説明自体が分かりやすく書かれている。たまにはこの類の本も読んでいこうと思いました。
あと読みやすくて良い。基礎編なHOW TO本なのもあるし、文章を書くことの本なのでその説明自体が分かりやすく書かれている。たまにはこの類の本も読んでいこうと思いました。
2023年9月17日 この範囲を時系列順で読む
彩度は低め、明度は高め、コントラストは強め、褪せているがそれゆえの美しさ、美しくないことが美しい世界にしたい
2023年9月16日 この範囲を時系列順で読む
占領下という設定なので彩度を低くしたいがそうすると必然くすむし地味になるし冴えない感じになる問題
彩度は低め、明度は高め、コントラストは強めすればちょっと美しくなる 気がする
彩度は低め、明度は高め、コントラストは強めすればちょっと美しくなる 気がする
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2023年9月15日 この範囲を時系列順で読む
絵を描く気があまりおきないのだけど 自分の作品を自分で閲覧することもやる気においては大切だなと思った また描こう!となるので
waveboxもパチパチありがとうございます~
イラスト単体のログをどうしようかなぁ…と思ってます。ギャラリー機能は表示が重いので……
しかしこの快い広さはどうだろう。目をさえぎるもののない(あの気味の悪い鉄柱や煙突や、わずかにくずれ残った煉瓦造りの建物や監視塔が目にはいっても、そこに横たわる空間の広さに呑みこまれてしまえば、雑草の存在とかわらない)野の中に置かれると、私が享けるものは、自然ののびやかな恵みでしかない。人々の悲惨は通りすぎ、残されたものは錆び行く鉄塊と崩れゆく煉瓦でしかなく、 すべては土にかえってしまうことが定められている。ほろびるもののあいだにはさまれて、遠からずほろび行く自分をも私は遂につかみ得ないのである。虚無の陶酔が私の神経をしびらせていたろうか。 こんな広い土地を自分のものにしたい、というへんな考えがにぶい伴奏のように私の頭を覆っていた。 目をさえぎるもののない広漠たる土地の広がりは、そこで殺された何百万ものにんげんの血をにじませながら私のこころを屈託のない広がりの快さに誘いつづけていた。
/「ブジェジンカにて」『島尾敏雄全集 第9巻』
/「ブジェジンカにて」『島尾敏雄全集 第9巻』
『島尾敏雄全集』を2冊ほどポチ…としてしまいました。9巻の東欧について書いた回は本当に良い。ので追加で……。
オシヴィェンチム――有名なアウシュヴィッツ収容所がある都市の収容所跡(それがアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所跡なのかは不明…覚えていない)では、この収容所の「快い広さ」は何だろう、この土地を自分のものにしたいという得体のしれない感覚があった……という趣旨のことを書いていて、驚きました。収容所の土地が欲しいという人いる?
でもそれは自分ごととして収容所とその歴史を抱きしめたいという意志なのかもしれないと思いました。文章の技巧。
オシヴィェンチム――有名なアウシュヴィッツ収容所がある都市の収容所跡(それがアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所跡なのかは不明…覚えていない)では、この収容所の「快い広さ」は何だろう、この土地を自分のものにしたいという得体のしれない感覚があった……という趣旨のことを書いていて、驚きました。収容所の土地が欲しいという人いる?
でもそれは自分ごととして収容所とその歴史を抱きしめたいという意志なのかもしれないと思いました。文章の技巧。
いいねパチパチありがとうございます!確認してます
2023年9月14日 この範囲を時系列順で読む
人間
人間の絶望や悲劇や死で話を過激に着彩することはできるが、苦楽の間の揺れ様や悲喜の絶妙な差異や、なにより人間そのものへの信頼を描き得ず、物語が物語として必要とされる所以、人間が物語を必要とする理由たる人間の孤独、欠落、渇きを回復する優しさを持つ物語を設計することができない
人間の絶望や悲劇や死で話を過激に着彩することはできるが、苦楽の間の揺れ様や悲喜の絶妙な差異や、なにより人間そのものへの信頼を描き得ず、物語が物語として必要とされる所以、人間が物語を必要とする理由たる人間の孤独、欠落、渇きを回復する優しさを持つ物語を設計することができない
船で運ぶもの
Googleで「日本郵船歴史博物館」と検索すると検索候補に「恨み」と出てくるんですけど、あれ、結構びっくりしますよね。あれはおそらく博物館の展示である「戦争と壊滅」を指しているんだと思うんです。恨み、というのは商船がたくさん徴傭されたこと、その乗組員も取られたこと、その多くが返って/帰って来なかったことへの日本海軍と日本政府への非難のことでしょう。実際に皆さんが見たらちゃあんとわかったと思うのですけど、そこまで恨みってもんは書かれてなんかないんです。そこから日本郵船の恨みというものを感じるのは、むしろ私たちに後ろめたさがあるからじゃないのかしらん、とわたしは思っちゃいます。
敗戦後、事実上日本政府は企業に戦時補償をしませんでした。なぜならインフレを許さないGHQが補償を許さなかったからで、GHQが許さなかったという大義名分のもとで政府は補償をしない自身を許しました。もちろんもう少し事情は込み入るのだけど、とにかく補償はなくなちゃって、海運会社は踏んだり蹴ったりということで戦争は一応終わってしまいました。
戦争は終わりました。進駐軍が日本に来ました。占領下、といえばたとえば川島織物はアメリカ兵に大人気だったみたいなのです。珍しい織物や工芸品がいっぱいあったから。綺麗なものがいっぱいで。お土産品売りとして繁盛しました。あるいは工業の工場なら、日常用品を造ることでしのげたでしょう。鍋とか包丁とか。美しいものか実用的なものを。戦争には使わないものを。兵器を造ることは忘れて。
でも海運会社にはごはんの種の船がなかったから、船があっても外航できないから、まず本業はだめだったんです。印刷機とか船の大型洗濯機とかは残ってたみたいです。これでどうにかしのげないか、って話になってきます。たとえば洗濯屋をやるとか。貨客船文化で鍛えた接客業とか……。
なにより泡を食ったのは、商社と同じく、世界を跳躍した日本海運が……それらが集めた資金が、軍国の地位を押し上げたのではないか、という連合国側の考えとそこから由来する厳しい対応でした。商社の三井物産は解体されちゃったし、まあ日本郵船もねえ……みたいな話はあったみたいなんです。こういう企業がね。帝国を根強く支えた資本がねえ。三井三池鉱山があったことがどういうことかっていうとね。考えないとね。じゃあさ……。みたいなことになっていくんでしょうか。アメリカはそこまで考えてなかったと思うのだけど。でも、海運会社にその歴史を俯瞰できる、たとえばそう、擬人化のようなものがいれば、そこまで考えていたかもしれない、ですよね。物と人を運んでいくことの宿痾を。船で。船を使って。
公娼制と船ってふかく結びついていると思いませんか、とひとに提示する時に、脳裏にあるのは「からゆきさん」やそれに部類する多くの移民や流民や棄民です。明治時代の日本企業による海外進出は、まず三井物産が進出し、日本郵船が航路を通し、横浜正金銀行が支店を出すものだ、といわれていたけども、企業の進出のまわりにいて、それらを使う人びとがいっぱいいたはずなんです。もちろんからゆきさんたちは日本郵船の秘蔵っ子の貨客船なんて使わないのだろうけど、そうじゃなくて、そうじゃなくてわたしがしているのは、企業の手からこぼれおちたおおくの庶民のはなしです。小さな会社の小さな貨物船の船底に身をひそめて、時には溺れ死んでも、その手段を頼って密航せざるをえなかった民衆たちのはなしです。三等客室にすらなれなかったひとびとを、ときどき、企業擬人化たちはちゃんと思い出しているかもしれませんね。「妻の母はからゆきさんだった」とウィーンのある教授から手紙が送られてきたことがある、と書き残したのは『からゆきさん』を著した森崎和江でした。私はそれを読んだとき、その妻の父は誰だったのだろうか、妻の血筋は日本人だったのだろうか、その教授はどのような人種なのだったのだろうか、彼らに子どもはいるのだろうか、その彼あるいは彼女はどんな容貌をしているのだろうかと思い、またそれらの疑問はあの広大な大陸では何の意味もないのかもしれないと一人納得したんです。島国の向こうの大陸では国境は上に移ろい下へと侵攻し、また近代になって国家間で厳密に定められ、時には戦争で喪失し……ということが当たり前にあった、「からゆきさん」のいきついたマレーシアや朝鮮などの大陸の都はオーストリアの首都ウィーンへとはるばる連なっていきます。またそれは大陸だけのはなしではなく、この島国もそうした大陸の確かな一員であったこと、みはてぬ海とそこにあった陸はなにより広くてまた近かったこと、そのことを重々熟知していたのはやはり海運会社だったはずでしょう。あやしい混血の色彩と国籍の飽和は彼らのたしかに知る世界でした。その世界はきっとある意味でうつくしかったはずです。が、彼らの罪もそこから発したものでした。国家が国民の地位を担保する時代で、その寄り辺を持たなかった「からゆきさん」や移民たちは、渡った先の外国では容易に弱者へと転落していきました。そのことを承知しながらも、船で運ぶことが生業でした。なぜならそこに、資本と利益があったから。収益という存在意義が。
利益を追い求めた結果、軍国へと貢献し、その国家と軍は自らに船と犠牲とを求めました。けどその船と犠牲とは時に己に確固たる地位と利潤を由来させる可能性もあったんです。信濃丸はやっぱり誇らしかったことを、やっぱり憶えていたかもしれませんね。脆さをたたえた多くの戦標船を前にしてもその夢は崩れなかったかもしれない。なぜなら犠牲の先には、終わりと救済があったはずだから。まだこの苦しみの終わりとその補償の可能性はあった。わずかでも希望はあった。……はずでした。
私が求めたのは、そういった自らの罪と業の自覚と、それでもそこを進むしかなかったことを自認していた企業と、その未来と救済とが失われることになったはなしでした。戦争は終わったけれど、べつの戦争は終わっていないはなしでした。その戦争に嬉々と加担した自分とその自覚性のはなしでした。「大脱走」の主題の一つはそこにあるのです。
#「大脱走」(企業擬人化)
Googleで「日本郵船歴史博物館」と検索すると検索候補に「恨み」と出てくるんですけど、あれ、結構びっくりしますよね。あれはおそらく博物館の展示である「戦争と壊滅」を指しているんだと思うんです。恨み、というのは商船がたくさん徴傭されたこと、その乗組員も取られたこと、その多くが返って/帰って来なかったことへの日本海軍と日本政府への非難のことでしょう。実際に皆さんが見たらちゃあんとわかったと思うのですけど、そこまで恨みってもんは書かれてなんかないんです。そこから日本郵船の恨みというものを感じるのは、むしろ私たちに後ろめたさがあるからじゃないのかしらん、とわたしは思っちゃいます。
敗戦後、事実上日本政府は企業に戦時補償をしませんでした。なぜならインフレを許さないGHQが補償を許さなかったからで、GHQが許さなかったという大義名分のもとで政府は補償をしない自身を許しました。もちろんもう少し事情は込み入るのだけど、とにかく補償はなくなちゃって、海運会社は踏んだり蹴ったりということで戦争は一応終わってしまいました。
戦争は終わりました。進駐軍が日本に来ました。占領下、といえばたとえば川島織物はアメリカ兵に大人気だったみたいなのです。珍しい織物や工芸品がいっぱいあったから。綺麗なものがいっぱいで。お土産品売りとして繁盛しました。あるいは工業の工場なら、日常用品を造ることでしのげたでしょう。鍋とか包丁とか。美しいものか実用的なものを。戦争には使わないものを。兵器を造ることは忘れて。
でも海運会社にはごはんの種の船がなかったから、船があっても外航できないから、まず本業はだめだったんです。印刷機とか船の大型洗濯機とかは残ってたみたいです。これでどうにかしのげないか、って話になってきます。たとえば洗濯屋をやるとか。貨客船文化で鍛えた接客業とか……。
なにより泡を食ったのは、商社と同じく、世界を跳躍した日本海運が……それらが集めた資金が、軍国の地位を押し上げたのではないか、という連合国側の考えとそこから由来する厳しい対応でした。商社の三井物産は解体されちゃったし、まあ日本郵船もねえ……みたいな話はあったみたいなんです。こういう企業がね。帝国を根強く支えた資本がねえ。三井三池鉱山があったことがどういうことかっていうとね。考えないとね。じゃあさ……。みたいなことになっていくんでしょうか。アメリカはそこまで考えてなかったと思うのだけど。でも、海運会社にその歴史を俯瞰できる、たとえばそう、擬人化のようなものがいれば、そこまで考えていたかもしれない、ですよね。物と人を運んでいくことの宿痾を。船で。船を使って。
公娼制と船ってふかく結びついていると思いませんか、とひとに提示する時に、脳裏にあるのは「からゆきさん」やそれに部類する多くの移民や流民や棄民です。明治時代の日本企業による海外進出は、まず三井物産が進出し、日本郵船が航路を通し、横浜正金銀行が支店を出すものだ、といわれていたけども、企業の進出のまわりにいて、それらを使う人びとがいっぱいいたはずなんです。もちろんからゆきさんたちは日本郵船の秘蔵っ子の貨客船なんて使わないのだろうけど、そうじゃなくて、そうじゃなくてわたしがしているのは、企業の手からこぼれおちたおおくの庶民のはなしです。小さな会社の小さな貨物船の船底に身をひそめて、時には溺れ死んでも、その手段を頼って密航せざるをえなかった民衆たちのはなしです。三等客室にすらなれなかったひとびとを、ときどき、企業擬人化たちはちゃんと思い出しているかもしれませんね。「妻の母はからゆきさんだった」とウィーンのある教授から手紙が送られてきたことがある、と書き残したのは『からゆきさん』を著した森崎和江でした。私はそれを読んだとき、その妻の父は誰だったのだろうか、妻の血筋は日本人だったのだろうか、その教授はどのような人種なのだったのだろうか、彼らに子どもはいるのだろうか、その彼あるいは彼女はどんな容貌をしているのだろうかと思い、またそれらの疑問はあの広大な大陸では何の意味もないのかもしれないと一人納得したんです。島国の向こうの大陸では国境は上に移ろい下へと侵攻し、また近代になって国家間で厳密に定められ、時には戦争で喪失し……ということが当たり前にあった、「からゆきさん」のいきついたマレーシアや朝鮮などの大陸の都はオーストリアの首都ウィーンへとはるばる連なっていきます。またそれは大陸だけのはなしではなく、この島国もそうした大陸の確かな一員であったこと、みはてぬ海とそこにあった陸はなにより広くてまた近かったこと、そのことを重々熟知していたのはやはり海運会社だったはずでしょう。あやしい混血の色彩と国籍の飽和は彼らのたしかに知る世界でした。その世界はきっとある意味でうつくしかったはずです。が、彼らの罪もそこから発したものでした。国家が国民の地位を担保する時代で、その寄り辺を持たなかった「からゆきさん」や移民たちは、渡った先の外国では容易に弱者へと転落していきました。そのことを承知しながらも、船で運ぶことが生業でした。なぜならそこに、資本と利益があったから。収益という存在意義が。
利益を追い求めた結果、軍国へと貢献し、その国家と軍は自らに船と犠牲とを求めました。けどその船と犠牲とは時に己に確固たる地位と利潤を由来させる可能性もあったんです。信濃丸はやっぱり誇らしかったことを、やっぱり憶えていたかもしれませんね。脆さをたたえた多くの戦標船を前にしてもその夢は崩れなかったかもしれない。なぜなら犠牲の先には、終わりと救済があったはずだから。まだこの苦しみの終わりとその補償の可能性はあった。わずかでも希望はあった。……はずでした。
私が求めたのは、そういった自らの罪と業の自覚と、それでもそこを進むしかなかったことを自認していた企業と、その未来と救済とが失われることになったはなしでした。戦争は終わったけれど、べつの戦争は終わっていないはなしでした。その戦争に嬉々と加担した自分とその自覚性のはなしでした。「大脱走」の主題の一つはそこにあるのです。
#「大脱走」(企業擬人化)
2023年9月13日 この範囲を時系列順で読む
しかし、もっとも重要なことは、初期高揚以来ドーピング期まで――多少ともぼろぼろになりながらも――維持されてきた「誇大的全体性」と決別することである。ダーウィンの『種の起源』は数倍十数倍の大著の完成の夢想を断念することによって現実の完成をみた。収束とは「断念による現実化」である。執筆はなお進行しているが、もはや「展開による現実化」の過程でなくなりつつある。この二つの 「現実化」の交替がどこで起こるかによって著作の形態と性格と雰囲気とがある程度決まる。
/中井久夫「執筆過程の生理学」『中井久夫集5』
/中井久夫「執筆過程の生理学」『中井久夫集5』
物語、完成させねば……
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- 「渺渺録」(企業擬人化)(217)
- 『マーダーボット・ダイアリー』(33)
- おふねニュース(25)
- 「大脱走」(企業擬人化)(21)
- 「ノスタルジア 標準語批判序説」(二次創作)(18)
- 実況:初読『天冥の標』(16)
- 読んでる(14)
- SNSの投稿(14)
- 展示会情報(13)
- 『ハリー・ポッター』(13)
- きになる(13)
- 「海にありて思うもの」(艦船擬人化)(13)
- 書籍情報(12)
- 企業・組織(12)
- 読了(8)
- 「蛇道の蛇」(一次創作)(8)
- 御注文(7)
- 「時代の横顔」(企業・組織擬人化)(6)
- 「空想傾星」(『マーダーボット・ダイアリー』)(6)
- 「徴用船の収支決算」(一次創作)(5)
- おふね(5)
- 「病院船の顛狂室」(艦船擬人化)(4)
- 本(3)
- 感想『日本郵船戦時船史』(3)
- 入手(2)
- 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(2)
- 「『見果てぬ海 「越境」する船舶たちの文学』」(艦船擬人化)(2)
- 「人間たちのはなし」(艦船擬人化)(2)
- 『青春鉄道』(2)
- 映画(1)
- 映像(1)
- 「テクニカラー」/「白黒に濡れて」(艦船擬人化)(1)
- 「かれら深き波底より」(一次創作)(1)