カテゴリ「艦船擬人化」に属する投稿[40件](3ページ目)
三篇をあるぜんちな丸ではなく貨客船新田丸に謹んで捧げたいのです(汝こそ特設艦船の極北たりき) また一編「孤独の極北」をとり、李良枝「かずきめ」に憚りながら付したい
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
李良枝『由煕 ナビ・タリョン』収録「かずきめ」の、ジェンダーに迫りくる暴力性のはなし、あれは在日コリアン特有の問題というよりも著者自身や温又柔先生の指摘にあるように、カッコつきでくくられる「世界性」「普遍性」や「コスモポリタニズム」を経過……というより平行している……話だ。
「海にありて思うもの」は「南洋の追想」「孤独の極北」「極東の客死」の三部で構成されるが、二部「孤独の極北」は「かずきめ」を経過した何かにしたい、と思っている。航空母艦冲鷹のはなし。
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
「海にありて思うもの」は「南洋の追想」「孤独の極北」「極東の客死」の三部で構成されるが、二部「孤独の極北」は「かずきめ」を経過した何かにしたい、と思っている。航空母艦冲鷹のはなし。
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
小説「海にありて思うもの」、完成させたい。心理描写が多すぎて、動きやそれを説明する文章が不足している。
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
これも哀れなふねなのだ、とあるぜんちな丸は思った。あるぜんちな丸の妹同様、かつて受けた愛を忘れられないでいる。再びあの愛情を得られないからこそ積極的に捨て去ろうとしている。自ら進んで捨てることで主体性を確保しようとしている。足掻き、苦しみ、悶えている。今持ちえている(ので、あろう)軍艦の威容を誇ろうとする。わが妹とは違い、貨客船新田丸の姿を留めたまま沈没するという栄誉を得ることはなかった航空母艦、冲鷹。
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
生きる為に外洋で春をひさぐおんなたちを唐行き天竺行きのおんなたちを船底に隠して運んでやるのだ、女と船員の共犯者であり船である俺はそれを止めることができないのだ、けどもいつしか彼女たちを日本へと帰してやりたいのだ、迎えてあげたい、もしかしたら送り出したおんなたちは南洋でたくさんの富を築いていて、一等船客として貨客船の船友に乗りこの国へ戻ってくるかもしれぬ、俺はおなじ海で、おなじ船としてそれを見届けるのだ……とある知り合いの船はいった。彼はどこの船だったかな、もしかしたら、三池炭を運んでいたことがあったのかもしれない。
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
「タバコは要りますか?神鷹」
「いいえ。結構よ」
まるで軍隊の粗野さからは程遠く、かつての貨客船時代の一等客すら彷彿とさせる典雅な響きをもって、元国策豪華船と元独逸優秀貨客船であった軍艦両者の会話は始まり、終わった。艦長に聞かれでもしたらきつぅく窘められそうな言葉遣いになってしまったな、と海鷹は思った。
***
元貨客船のなかには、艦梯を登る際に大きくだぼついた軍袴の横部をドレスを引くように掴んで笑われた者もいるというのだから、その身に宿すふねの性〔さが〕は深いものだ。人間たちは、そのことを都合よく忘れている気がする。ふねは皆ふねでしかない、という幻想が人間たちの思惑の間いっぱいに漂っている。特設艦艇という身に貨客船たちが容易に適応できると思っている。もちろんそうある船はいる。そうじゃない船もいる。人間たちの国家や国籍や民族名を統合したり分割したりしても、容易にその心情までは追いついてこないのとおなじなのだ。もっとも本土に閉じこもっている偉い人間たちがそれに気づくとも思えない。あるぜんちな丸は外国が好きだった。外国や外国人、外国にいる、外国に行く日本人が好きだった。本土の人間は小さくて適わんという言葉は船長から三等客までに聞かせられる囁きだった。
***
船であることというよりも貨客船であることにつよく誇りと自負があった妹、ぶら志"る丸は、航空母艦としての誉れを受ける前に早々にその身を海深くへと没していた。あれは亜米利加軍の雷撃がなくとも、たとえ一隻でも自ら死を選んだに違いない、というのが彼女の姉たる海鷹の見解である。わが身を航空母艦の何鷹云々に成すなんて、あの子は決して許さなかっただろう。
実際、特設運送船ぶらじる丸になったあたりからあの子は明らかに精神的不調を抱えていたし、その不調はその当時の軍隊での疲労や苦痛というよりもむしろ、それ以前に持ちえた過去が問題なのだった。
貨客船として人間達に愛されすぎたのだ、と海鷹は思った。妹はその愛情溢れる過去を過去であると捨て去ることができなかったのだ。そうしてわが身いっぱいに重い思い出を抱えた彼女は米潜の雷撃で沈んでいった。過去と共に。船の身と共に。誇りと共に。愛しき船長と共に。
人間全般にも特定の人間にも貨客船としての自分にも、つよい愛着を持たなかったことが軍艦海鷹を海へと沈めなかった要因なのかもしれない。
***
「私はもう軍艦なんだから、気軽に話しかけるなよ軍属」
軍艦冲鷹が特設運送船へ放ったこの言葉に、その場は北方海域より寒い零度となった。「……冲鷹、」と彼女をたしなめたのは大鷹型航空母艦のネームシップ、我らが”長兄”たる大鷹であった。
「下らない揶揄は止せ」
「揶揄ではない」
「なら尚更止めろ」
冲鷹を呼ぶ大鷹が一瞬言葉を言い淀んだのは、長女だった姉に本当は何と呼びかけるつもりだったからなのかな、と海鷹はぼんやりと思った。私はもう、軍艦なんだから、気軽に話しかけるなよ、軍属。このあっさり放られた言葉に含まれる、戦時下の軍隊のふねたちの見事な政治性!元貨客船新田丸は無邪気で哀れ、愚かな軍艦役者だが、彼女のこの言葉の鮮やかさは手放しでほめてやりたかった。すなわち、未だ商船の名残を留めたる輸送船に対し、すでに商船でない商船改造空母が軍艦であることで優越を誇る海軍という場の、露骨なまでの軍隊ざま、すさまじき地獄っぷりである。
ここではそうあることでしか我々は生きれないという今一度の再確認を、海鷹は冲鷹から賜ったのだ。そしておそらく、大鷹も。
…だいたい、どうして私が彼女を責められよう、と海鷹は思った。この泣きそうな輸送船の船名も、私は最後まで覚えられなかったのに。
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
「いいえ。結構よ」
まるで軍隊の粗野さからは程遠く、かつての貨客船時代の一等客すら彷彿とさせる典雅な響きをもって、元国策豪華船と元独逸優秀貨客船であった軍艦両者の会話は始まり、終わった。艦長に聞かれでもしたらきつぅく窘められそうな言葉遣いになってしまったな、と海鷹は思った。
***
元貨客船のなかには、艦梯を登る際に大きくだぼついた軍袴の横部をドレスを引くように掴んで笑われた者もいるというのだから、その身に宿すふねの性〔さが〕は深いものだ。人間たちは、そのことを都合よく忘れている気がする。ふねは皆ふねでしかない、という幻想が人間たちの思惑の間いっぱいに漂っている。特設艦艇という身に貨客船たちが容易に適応できると思っている。もちろんそうある船はいる。そうじゃない船もいる。人間たちの国家や国籍や民族名を統合したり分割したりしても、容易にその心情までは追いついてこないのとおなじなのだ。もっとも本土に閉じこもっている偉い人間たちがそれに気づくとも思えない。あるぜんちな丸は外国が好きだった。外国や外国人、外国にいる、外国に行く日本人が好きだった。本土の人間は小さくて適わんという言葉は船長から三等客までに聞かせられる囁きだった。
***
船であることというよりも貨客船であることにつよく誇りと自負があった妹、ぶら志"る丸は、航空母艦としての誉れを受ける前に早々にその身を海深くへと没していた。あれは亜米利加軍の雷撃がなくとも、たとえ一隻でも自ら死を選んだに違いない、というのが彼女の姉たる海鷹の見解である。わが身を航空母艦の何鷹云々に成すなんて、あの子は決して許さなかっただろう。
実際、特設運送船ぶらじる丸になったあたりからあの子は明らかに精神的不調を抱えていたし、その不調はその当時の軍隊での疲労や苦痛というよりもむしろ、それ以前に持ちえた過去が問題なのだった。
貨客船として人間達に愛されすぎたのだ、と海鷹は思った。妹はその愛情溢れる過去を過去であると捨て去ることができなかったのだ。そうしてわが身いっぱいに重い思い出を抱えた彼女は米潜の雷撃で沈んでいった。過去と共に。船の身と共に。誇りと共に。愛しき船長と共に。
人間全般にも特定の人間にも貨客船としての自分にも、つよい愛着を持たなかったことが軍艦海鷹を海へと沈めなかった要因なのかもしれない。
***
「私はもう軍艦なんだから、気軽に話しかけるなよ軍属」
軍艦冲鷹が特設運送船へ放ったこの言葉に、その場は北方海域より寒い零度となった。「……冲鷹、」と彼女をたしなめたのは大鷹型航空母艦のネームシップ、我らが”長兄”たる大鷹であった。
「下らない揶揄は止せ」
「揶揄ではない」
「なら尚更止めろ」
冲鷹を呼ぶ大鷹が一瞬言葉を言い淀んだのは、長女だった姉に本当は何と呼びかけるつもりだったからなのかな、と海鷹はぼんやりと思った。私はもう、軍艦なんだから、気軽に話しかけるなよ、軍属。このあっさり放られた言葉に含まれる、戦時下の軍隊のふねたちの見事な政治性!元貨客船新田丸は無邪気で哀れ、愚かな軍艦役者だが、彼女のこの言葉の鮮やかさは手放しでほめてやりたかった。すなわち、未だ商船の名残を留めたる輸送船に対し、すでに商船でない商船改造空母が軍艦であることで優越を誇る海軍という場の、露骨なまでの軍隊ざま、すさまじき地獄っぷりである。
ここではそうあることでしか我々は生きれないという今一度の再確認を、海鷹は冲鷹から賜ったのだ。そしておそらく、大鷹も。
…だいたい、どうして私が彼女を責められよう、と海鷹は思った。この泣きそうな輸送船の船名も、私は最後まで覚えられなかったのに。
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)
軍艦冲鷹があるぜんちな丸の隣の特設運送船へ放ったこの言葉に、その場は北方海域より寒い空気が漂った。「……冲鷹、」と彼女をたしなめたのは大鷹型航空母艦のネームシップ、”長兄”たる大鷹であった。
「下らない揶揄は止せ」
「揶揄ではない」
「なら尚更止めろ」
冲鷹を呼ぶ大鷹が一瞬言葉を言い淀んだのは、長女だった元姉に本当は何と呼びかけるつもりだったからなのかな、と特設運送船あるぜんちな丸はぼんやりと思った。
苛立ちを隠そうともしない冲鷹の不興の理由は、隣の特設運送船が何気なく、しかし縋るように護衛艦艇の有無を尋ねたからだ。またそれらの具体的な艦種や艦名や、任務の内容なども。あのう、あたしたちにはどのくらいの護衛がつくのでしょうか、強い艦ですか、船団の形はどんなでしょうか、遅い船はいっしょに居ますか、航路は島沿いですか、何ノットで走るんですか、あたし……。
それが自身を救う祈りの言葉になるかのようにぶつぶつと言いつのった彼女に、大鷹は明快にまた冷淡に、
「海防艦が付くと聞く。貴船の監督官の説明を待て」
と言い切り、一方的に話を打ち切った。
この特設運送船の口調が民間船の、というより平民のそれだったことも、冲鷹の神経を逆なでしたことの一因かもしれない。
私はもう、軍艦なんだから、気軽に話しかけるなよ、軍属。このあっさり放られた言葉に含まれる、戦時下の軍隊のふねたちの見事な政治性!元貨客船新田丸は無邪気で哀れ、愚かな軍艦役者だが、彼女のこの言葉の鮮やかさは手放しで褒めてやりたくなった。すなわち、未だ商船の名残を留めたる特設運送船に対し、すでに商船でない商船改造空母が軍艦であることで優越を誇る海軍という場の、露骨なまでの軍隊ざま、すさまじき地獄ぶりである。
ここではそうあることでしか我々は生きれない、という今一度の確認を、あるぜんちな丸は冲鷹から賜ったのだ。そしておそらく、大鷹も。隣の特設運送船も。
「隼鷹に引けを取ってはならない、戦闘に繰り出すだけが戦ではないんだ、我らは為すべきことを成さねばならない」
隠し切れない屈辱と羨望とをその声に孕ませ航空母艦隼鷹の名を呼んだ冲鷹は、忸怩たる己の現状を直視できていないのだろう。あるいはあえて無視しているのか。
護衛空母あるいは航空機の輸送という職務は、その貨客船の美しい身を捨てさせ、わざわざ航空母艦として改造させてまで必要だったのだろうか。航空母艦としてはまるで宝の持ち腐れだ。だがしかし、小型の商船改造空母として成しえる任務は、せいぜいそれくらいが限界だった。改造された結果の二流空母だ。正直、あるぜんちな丸はそう思っていたし、日本海軍の人間たちもそう思っているかもしれない。おそらく大鷹は思っているだろう。冲鷹だってほんとうはわかってるはずだ。
「だから……!」
これも哀れなふねなのだ、とあるぜんちな丸は思った。あるぜんちな丸の妹同様、かつて受けた愛を忘れられないでいる。再びあの愛情を得られないからこそ積極的に捨て去ろうとしている。自ら進んで捨てることで主体性を確保しようとしている。足掻き、苦しみ、悶えている。今持ちえている(ので、あろう)軍艦の威容を誇ろうとする。わが妹とは違い、貨客船新田丸の姿を留めたまま沈没するという栄誉を得ることはなかった航空母艦、冲鷹。
もし彼女に日本郵船の客船浅間丸を話をしたら、大日本帝国海軍お得意の木棒で打擲されるだろうか。それともむざむざと泣きはじめるかもしれないな。どちらにせよただの特設運送船に出すぎた真似は禁物だ。
…だいたい、どうして私が彼女を責められよう、とあるぜんちな丸は思った。この泣きそうな特設運送船の船名も、私は最後まで覚えられなかったのに。
……生きる為に外洋で春をひさぐおんなたちを唐行き天竺行きのおんなたちを船底に隠して運んでやるのだ、彼女たちは外地で簡単にくたばるし孤独だし石炭のように使い潰される、その前にわが船底で溺れ死ぬこともすくなくないのだ、おんなと船員の共犯者でありただの船である俺はそれを止めることができないのだ、けどもいつしか彼女たちを日本へと帰してやりたいのだ、迎えてあげたい、もしかしたら送り出したおんなたちは南洋でたくさんの富を築いていて、一等船客として貨客船の船友に乗りこの日本へ戻ってくるかもしれぬ、俺はおなじ海で、おなじ船としてそれを見届けるのだ……とある知り合いの船はいった。彼はどこの船だったかな。
#「海にありて思うもの」(艦船擬人化)