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No.1362
- 「渺渺録」(企業擬人化)(169)
- 『マーダーボット・ダイアリー』(33)
- おふねニュース(23)
- 「大脱走」(企業擬人化)(20)
- 「ノスタルジア 標準語批判序説」(二次創作)(18)
- 実況:初読『天冥の標』(16)
- きになる(13)
- 読んでる(13)
- 「海にありて思うもの」(艦船擬人化)(13)
- 企業・組織(12)
- 読了(8)
- 「蛇道の蛇」(一次創作)(8)
- 書籍情報(7)
- 展示会情報(7)
- 「時代の横顔」(企業・組織擬人化)(6)
- 「空想傾星」(『マーダーボット・ダイアリー』)(6)
- 御注文(5)
- 「徴用船の収支決算」(一次創作)(5)
- おふね(5)
- SNSの投稿(3)
- 感想『日本郵船戦時船史』(3)
- 入手(2)
- 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(2)
- 「『見果てぬ海 「越境」する船舶たちの文学』」(艦船擬人化)(2)
- 「人間たちのはなし」(艦船擬人化)(2)
- 『青春鉄道』(2)
- 「病院船の顛狂室」(艦船擬人化)(1)
- 「テクニカラー」/「白黒に濡れて」(艦船擬人化)(1)
- 「かれら深き波底より」(一次創作)(1)
「大きいふねになりたいな」
と、友達のえい船がぽつりと洩らした。「水平線しか見えない大海原を、一人で泳いでみたくない?」
わかるよ、ともう一人のえい船が会話を繋いだ。「果てしない海を渡って、外国の綺麗な港で旗を上げてみたくない?」
「ぼくは海賊をやっつけたい!」と、さらにもう一人の別のえい船が朗々と叫んだ。それに対し、やっつけてるんじゃないんでしょ?よくわかんないけど、とまた別のえい船がつっこみ、言葉を続けた。
「ぼくは海の中でお魚とおしゃべりしながら、みんなで一緒に泳ぎたいな」この前、なんちゃらりゅうくんが、海の中は賑やかでキラキラしていて、とても素敵なところだよって言ってたんだ。
ここまで語ること四人。黙っていたぼくを、彼らはそっと見つめる。「君はなんの艦になりたい?」
「……ぼくは、……ぼくは、えい船のままがいい」
そうぽつりと言うと、みんなはええーっと驚いたように叫んだ。なんでなんで、とみんなは大合唱する。君は縁の下の力持ちのままでいいの、かっこいい写真を撮られてみたくないの、自分の名前を覚えられたくないの。
だってだって、とぼくは反論した。えい船の上で当たる風が、いちばん気持ちがいいんだもん。ぼくのその言葉に、みんなはきょとんとしている。ぼくは続けた。
「護衛艦や補助艦艇はおおきなお城みたいだ、水面のちかくで体いっぱいに風にあたれない。潜水艦はいつも海の中でひとりぼっちだし。……ぼくは知ってるよ、えい船の上で味わえる風の、いちばんの気持ちよさを」
そんなぼくの言葉に、みんなはびっくりしてただ押し黙る。そして互いに目を合わせ、さらに数秒黙った後、うんうん、そっかそっか、と頷きあい、そうだねたしかにね、と言いあった。
「じゃあぼくもえい船のままでいよう」
「ぼくもそうする」
「小さいふねも、結構楽しいもんね」
君はいい子だなあと、友達のえい船が言った。みんなはないものねだりなんだよ、とぼくは小さく呟いた。