喫水はまだ甘くまだ浅くある

津崎のメモ帳です。兼ログ置き場(新しめの作品はここに掲載してあります)。

No.156

祖父(おおちち)の処刑のあした酔いしれて柘榴のごとく父はありたり
/「未完の手紙」『佐伯裕子歌集』


この美しげな最期の手紙をひたすら信じて、若い父と母は戦後を暮らしたように思う。ことに、「我欲、我執は貧、瞋り、愚痴と申す三毒が出て一家は正に修羅の巷となるべし」のおみくじのごとき箇所である。ここを、「戦犯の子孫は生涯を黙して暮らすべし」と解釈して、とにかく世間にものをいうことを恐れつづけていた。過度にものをいわなかった父は、世間を心底恐れているように見えた
/「墓石とワインボトル」『(同)』

引用