軍艦のさだめを逃れるために乗る逃避の船の果てなき旅路 
#傾艦短歌 金剛
そうそう!きょうだいの話でしたね。話始めるととりとめないですが、例えばそう、何回か、きょうだいで銀座に行きました。パーラーや、買い物とか。なんだか、人間になれたみたいでした。あの子たち、進水したときよりいつの間にか私よりずっと大きくなってたんですよ。軍服を着ているのを毎日見ていると気づかなかったのですが。比叡も霧島も背が高いし、榛名だって女にしては背が高い、おまけに彼らは茶髪で私は金髪ときたから、とても目立つんです。だから、行けたのは数回でした。大半は、もっと静かなところや、艦体の近くの港町でお茶を濁したり……。もったいないことをしたわ。私たち、寿命が短いと決まっているのだから、いくらだって羽目を外してよかったはずなんです。でも、だめなの。だって、私たち、普通の人間でも容貌でもなかったし、なによりそう、軍艦なんですもの。(沈黙)……比叡や霧島と腕を組みながらふと、そんなこと思ったこともなかったのになぜか思いました。なんででしょう……。ああ、このまま、洋装のまま汽車に乗って、どこか遠くへ行けたらなあ……って。軍艦に戻りたくない。切符を買って、どこか遠くへ。それこそイギリスまで行ってもよかったんです。海を渡って。ふねに乗るんです、軍艦が(笑う)、軍艦であることをやめるために……。きょうだいでずうっといるために。私たちまだ二十と数よ。人間なら七十は生きられるわ。戦争で沈むなんて馬鹿げてる。私たちはまだそのとき二十と数だった……私たちはまだ……私たち…………(いい続けてふいにやめる、沈黙)*hide

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