アレクシエーヴィチ氏の講演会(東京外国語大学・2016年)の思い出

 2016年11月28日、東京外国語大学の「アレクシエーヴィチ氏を迎えて」という講演会に行きました。
 外大がドナルド・キーン氏につづく名誉博士号をアレクシエーヴィチ氏に授与するということで授与式、それに対するアレクシエーヴィチ氏のスピーチ、学生の質問に答える形式の「学生との対話」が行われました。
 東京外国語大学のほかでは東京大学でスピーチが行われました。

 この時期ははてなブログに2016年に投稿したものの改訂版です。埋もれるのがもったいないので掲載しておこうと思いました。元記事の文章は日本語が適当なので見るに堪えない……。

 Q(学生)「私は貴女の著作を読むととても胸が苦しくなる。しかし世界中の人間が貴女の著作を読めば、この世に起こらなかったものも多いだろう。そこで尋ねる。貴女の著作の読者はどんな人間か?」
 A(アレクシエーヴィチ)「私の著作の読者はどんな人間かという問い、これはあなたが自ら答えています。あなたのようなひとです。人生、命というものに心が震え、命を理解したいというひと。なぜことが起こるのか考えるひとです。逆に例えばドンバス(前にドンバスの戦争はロシアの侵略で、それを支持する人間は理解できないといっていた)で戦っているようなひと、彼らは私の著作もドストエフスキーも読んでいない」

 応答で興味深かったのは『死に魅入られた人びと』が好きなんだけどーという方とのやりとりでした。


 Q「チェルノブイリ、ソ連崩壊を迎えた人びとはどのように救済されたのか?」
 A「私は絶望する瞬間が多くあった。実存主義的なものに、話を書き留めている時に。ただ、神は人を絶望させるためだけにいるのではない。人は多くのものに救われる。愛に。愛と言うのは自分の子供の匂いなどに。自然に。音楽に。コーヒーを飲まなきゃという慣性に。偶然に。空の上で誰かが救っている」
 Q「『死に魅入られた人びと』が愛著書です。では、生き延びた人間と、死に逝った人間の違いはなんだったのだろうか?それにも、空の上の誰かが?」
 A「あの世からかろうじて戻ってきた人間は、おそらくさいごに愛にしがみついた。母とか、祖母とか、好きな音楽とか。愛だけが人を救うことができる。」

 講演会を知ったのは、麻田雅文氏(ロシア研究中心のひと)のTwitterをなんとなく覗いたからでした。帰宅途中の電車で確認し、電車の中でメールを送ったらギリギリ申し込めました(先着順の講演会)。申し込んだ数時間後にHPみたら締め切ってるくらいだった。
 キーン氏につづき 「名誉博士号」を彼女に授与することになったために講演会も兼ねたらしい。講演会は東大で金曜、外大で月曜で、土日は福島に行っていたそうです。この土日の旅はNHKの「BS1スペシャル ノーベル文学賞作家 アレクシエービッチの旅路」として放送されました。彼女の番組としては「ロシア  小さき人々の記録」もありますがこれは2000年に放送されたので見ることがなかなか困難のよう。

 内容は、外大についてはyoutubeに動画が上がっています。外大が自ら上げたものと非営利の独立系メディアOurPlanet-TVがあげたもの。外大版は字幕がついていませんが翻訳がすばらしく、OPの方は字幕がありますが簡潔にまとめられています。
 それにしても、東大に潜入してくれればよかったのに……とは思っています。東大版の動画はありません。
 公式では『すばる』2017年3月号に東大講演会の内容があります。

Our-Planet TV 大意の字幕あり

外大が上げた動画 同時通訳の素晴らしく情緒のある翻訳が聞ける

 全趣旨は外大の出している『ピエリア』(外大出版会と附属図書館が発行している読書冊子)2017年9月号に載っています。
 これはpdfで確認することができます。(http://repository.tufs.ac.jp/handle/10108/88872)文字でささっと見たいならこちらをお勧めいたします。

 OPTVの学生との対話の21:12に『死に魅入られた人びと』好きさんがいらっしゃいます。東大でも吉岡忍さんが「自殺者を取材したのはなぜか」と聞いているみたいですが、その文脈まで判断できないのがつらい……。
 
 次の著作は「愛について」らしいです。

「(愛によって)自分が幸せになることはできないというテーマです。男女の愛は時には戦争より恐ろしいものかもしれません」
(「言葉の力、信じて」47news-2015919)


 東大に行けなかったのが地味につらかったです。二連覇すればよかった……


 (スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ=2015年のノーベル賞文学賞者です。ジャーナリストとしては初の受賞。
 著作は『戦争は女の顔をしていない』、『ボタン穴から見た戦争』、『亜鉛の少年たち』、(『死に魅入られた人びと』)、『チェルノブイリの祈り』、『セカンドハンドの時代』。『死に魅入られた人びと』は絶版です。(『死に魅入られた人びと』と群像社の出版権をめぐってのあれこれがブログ「ムーザの小部屋」というブログさんの記事「群像社 アレクシエーヴィチ顛末」にあります。)
 『死に魅入られた人びと』はロシア本国でも絶版みたいです(アレクシエーヴィチ著作中唯一、原語取り寄せが不可でした)が、なんとロシア語のはネットに公開されているのです。サイト「Lib.rus」という名前のサイトで、ロシアのジャーナリストのオンラインライブラリーみたいなところみたいです。
 このサイトは『セカンドハンドの時代』の元帥の縊首の話の中にも出てきます。有名なロシアのサイトなのかもしれません。


 カメラ撮影OKでアレクシエーヴィチ氏撮り放題!!!だったのですが撮りませんでした。撮っておけばよかったですね。動画で見れますが、「『死に魅入られた人びと』が好き!」の質問者さんが質問を終えた後に氏がにっこりとその方に笑いかける瞬間が素敵でした。

追記・この記事を書いたときは『亜鉛の少年たち』が絶版で、『アフガン帰還兵の証言』というタイトルだったことを思い出しました。

Note>「アレクシエーヴィチ氏の講演会(東京外国語大学・2016年)の思い出」