オーガスト・オルコット[監督]インタビュー◎特集「オリンピック」:架空映画批評誌『第七芸術祭』

オーガスト・オルコット[監督]インタビュー 取材・文=桜庭譲

「オリンピック」は、客船オリンピックが豪華客船としての就航から第一次大戦時の軍用輸送船への転用を経て、再び客船へと戻るまでの激動の遍歴を描いた大作である。第一章はオリンピック就航直後の1912年に、姉妹船タイタニック沈没事件によってホワイト・スター・ライン社が嘗めた苦汁を三等船員トミー(アベル・コンラッド)の視点から、第二章は第一次世界大戦の1914年から1918年の軍用輸送船オリンピックを特別船員アレックス(カーティス・マックイーン)の視点から、第三章は1919年の再びの客船航路就航までの復帰を一等船員ネイサン(マイク・ガーランド)の視点からえがく三章構成の物語となっている。オルコットの前作は列車内でのミステリーを描いた作品であり、監督の乗り物とその密室性へのこだわりを感じる。
「そうですね(笑)。登場人物たちのいる空間がパッケージされている、その状態を映画というパッケージでパックするのが好きなのかもしれません。そしてそのパッケージはなるべく美しいと嬉しいです。そして華やかさという点では前回の鉄道ものよりは優れているかもしれません」
 美術監督と緻密な相談を重ね、時には口論になったというオルコット。客船の持つ「華やかさ」という意味の理解について意見の相違が出たという。
「アルドリッジ(美術監督)は正しくオリンピック級客船の細部を再現し、その上でとにかく豪華客船らしい豪華な客船を演出したいといいました。いわゆる客船らしい輝くシャンデリアにライト、それに乱反射する銀食器やディナー、鮮やかなドレスなどのことですね。私はそれを否定はしませんでしたが、船員の視点から客船をえがくということはどこかで美術的な折衷を見出さねばならない。ここでいう折衷というのは、一等船客から見た豪華客船と、船員から見た豪華客船という二つの視点です。あるいは三等客室からの視点も加えてもいい。美しさと華やかさは明確に違います。アルドリッジはそれを混同していたと感じ、彼とその差異について議論しました。そしてちゃんと和解してから完成させましたよ(笑)。私は豪華客船という美しさとその『美しさが持つ意味』を考えて、それを華やかな美術に繊細に反映させたいと考えました」
 たしかに、船員から見た客船文化の一面を感じるシーンは多数存在する。たとえば一等船客の女性が銀食器を落としてトミーが拾う場面は、華やかな客船の世界をえがくには欠点となる描写ではある。マナーの完璧な一等船客たちの世界では、女性はフォークを落とさなくてよい。
「あのシーンの主人公は女性ではなく、トミーなんです。一等船客が楽しく食事をしてちょっとしたミスをしてもカバーするのは船員です。女性はトミーにお礼も言わない。それが当たり前の世界ですからね。ディナーを並べるのも、ベッドを整えるのも、バスタブの準備をするのも船員です。豪華客船の美しさはそうして造られています。アルドリッジは、一等船客にフォークを落とさせたくなかったのです」

[※未完]

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