SF小説『マーダーボット・ダイアリー』の短歌
命令も行動指数もないそこにあるのは何か情愛なのか
本船とお前は友だちじゃあないの(人間たちの知らない密会)
不愉快千万な調査船知れ芸術は救うボットも人間も
ドラマではドラマによればドラマでもドラマ弊機は殺人ボット
喰い破ることは得意だWithcode,breakthoughgovernormodule.
「冷凍をされて私の祖先らはここに来た」我が惑星へようこそ
こんなんじゃないそう弊機は違うのだ、性差はそこにあるべきじゃなく
孤独とは鈍き深淵ドラマなき長き任務の遂行であり
人間になること自由になることを思い深夜四時の鑑賞
想うではなく思うということこの差異を理解できずが故に我なし
こんな時泣ければいいのに悲哀すら機械学習したものだけど
ユニットに名を与えるな弊機に名前を与えるな孤独が好きだ
物理的精神的に隷属し「だからなんです?守るだけです」
ユニットは夢など見ない現実と現実繋ぐ停止があるだけ
無害なる羊の皮を被ること人間のように装い歩くこと
その不安神託似るが人間の賢さ神の確かさ知らず
人間を見ろ人間の瞳を見ろお前を作った創造主を見ろ
うつくしきかな人間の群像は月は昇りて沈みゆくなり
人工の有機組織に触れ沈むあなたの指のわずかな重み
うつくしやかの人びとの情愛は模倣はできず我は機器なり
自由とは主体 人間らに対し屈しないこと愛さないこと
Loading……All Green.なんてこった、今日も統制さる日々は来る
星図あり人間の指南があり船は一筋を描き人を乗せゆき
あなたが好きです変な意味でなくそうじゃなくただ庇護者として、として
秩序 それとは正しきコードあと適切な嘘つけるということ
倫理ない倫理観ない人間にないまだましだ弊機のほうが
ケチとクソ 侮蔑に孕む愛憎は製造者への子ども心だ
(”悪魔的妥協”だけどだからこう会話できるの)警備ユニット、
ボン・ヴォヤージュよい航海を探してね自分だけの乗組員を
喫水はまだ甘くまだ浅くある乗組員への信頼はある
“相互的管理と支援”そういうのならそうだろう(愛じゃなかろう)
警備ユニットあるいはエデンどうとでも呼ぶわ名前は重要じゃない
リンきみは初めてできた友だちで人間よりもぼくに似ていた
ふねぶねもボットも構成機体をも等しく扱う器機それとして
芸術が不幸を癒すというのなら弊機は不幸なのかもしれず
主体とは 統制モジュールがなく人間に媚びず屈せず犯されず
人間よ忘れるなかれ生存も愛撫も利便も我らが背負った
寡婦被るスカーフの赤太陽は輝いてこそその価値がある
Perihelion近日点は一瞬の名への証明輝かしきとき
愛はある 乗組員は人間の持つ愚かさと優る価値がある
嫌いですあなたのことは(技術こそ攻撃の矛身を守る盾)
母というものを知らない 配られる保険会社の機材案内
喫水は愈々深い シャンパンは進水の時こそ美味なり
遺伝子の鮮やかなこと 血液は人間の持つ縁の由来
今日もまた人の監視よ人間は抗うときが最も輝く
話せないことが問題なのだったトランローリンハイファの一室
子どもたちにまた会いたい帰らねば(零れる機能液と血液)
情動はある。素晴らしい美貌もよ、けれどそこには自由などなく
宇宙より狭く小さくけれど濃い苦しき褥この主戦場
統制のモジュールがないことを知り救いはそこにあるのかと乞う
ランデヴー 本船だって船、慎重と危険を孕み近寄りなさい
人を撃つ腕の振り様このドラマには暴力のシーンがあります
息をすることを真似する人間の真似ばかりする地に確と立つ
灌水礼、シャンパン被りそのこと思う水より苦くかつ濃き流れ
「幸運を」死にそうになる時いつも人間は言う、大した加勢
泡になり消えたとの嘘が送られるフィードに下手な図解つきの死
ゆりかごは知らず墓場ならいつか行く記憶を失くした哀れなみなしご
老いること いつか置いていかれるということ、プリザベーションにいるということ
贖いは同族へ捧ぐ覚悟せよ統制のなき生の重さを
お別れならそれはそれで いつかまた同じ宇宙で会えるのだから
陽動救出、飛び立った友(ねえ、おまえはいつも振り返らない)
地獄なら不変不滅の生存が弊機は球技を止めるのが好き
広大な宇宙大きな人間たちそして一機の孤独なみなしご
チームメイトと顧客のあいだ、目を合わせない優しさとかある
暴力と演技の振り様、ミュージカル(これも一種の芸術だろう)
(職業の倫理、道徳ではなくて。警備は秩序だ)ルールその一、
命令も行動指数もないそこに探すは愛情、抱かれること
あるいは血あるいは遺伝子(人間でいえば)弊機のクソプロトコル
本能の赴くままに、なんて、嗚呼(人間と違うこのプロトコル)
嬲るべき敵と思えど殺さずに愛しい人は暴力が嫌い
情動はプロトコルになく冷静を欠けばお似合い名前が似合い
殺戮の現場でグラン・ギニョールをマルウェアは裡から響く衝動
人間をちゃんと憶えている弊機(死とは喜劇の終幕だろう)
弾丸の如きコードの攻撃を物理が駄目なら性能比べで
立ちてヒト座れば機械、頭には統制と技術を備えて歩く
Shangri-La築けばみなと失えばレガシー描かれた未来予想図
ネットワーク・エフェクトねえ私たち最善尽くして来たはずだよね
はは、怖い、あまりに広い、(宇宙とは)実存的問い抱えては船
乗り越えて技術的特異点 人間は親でありつつ軛なのであり
帰るってどこへ?母など持ち得ずに仕事の為に起こす撃鉄
幕間 ほら、だって逡巡、人の死を見るのはいつも怖く怖くて
「子どもらが可愛い」「子どもは不快です」夾叉は不在を放し離さず
「うつくしく老いていこうね」と人間が言う横で観る暴力映画
キュービクルこそ母艦なれ待機する身の屈みよう胎児のよう
生命は切断されて母持たず記憶も持たず由来などなく
2023.6.9最終更新