「大脱走」の覚え書き(解説など)

大脱走」は歴史と歴史の合い間の時代で当時の情勢が分かりづらく、また不親切な設計の漫画なので、解説をつくりたいと思っていました。

 解説の単独記事も作る予定ですが、とりあえずこのページに走り書きをしておこうと思います。

 ※随時追加します。随時24(てがろぐ)などで更新告知をする予定です。

  • 番外編「ゲイシャ・ボーイ」を描いた理由。
    • 『二引の旗のもとに』等に占領軍の海運会社への政策ヤバヤバだったよ~♪とよく書かれているけど、有吉義弥氏の本を読むとヤバとヤバの間にも日米間のやり合いや交流、思いやりがあったという事が分かる。
      • 占領下の海運は厳しかった、という「被害」的な面しか触れられなかったきらいがあるため、それに少し触れてみたかったので描いた。
  • 番外編「解纜遠し」を描いた理由。
    • 日本郵船の元社長の宮岡公夫氏の逸話に触れたかった。響乗組員の時に病院船氷川丸に招待され、ご馳走になったことが、御社の入社を志した要因にもなったとのこと。
      • このような逸話は無数にあったのだろう。「解纜遠し」のあの主人公は氏かもしれないし、その隣にいた誰かかも知れない……と設定して描いた。
        • ちなみに「駆逐艦が客船に化けた話」(『七十の手習ひ』)は宮岡氏が、燃料の補給ついでに病院船氷川丸の夕食の招待を受けた感激が忘れられずに、戦後の日本郵船で客船事業を開くことに邁進し、クリスタル・ハーモニー(のちの日本郵船の客船の飛鳥Ⅱ)の解纜に至るまでの話。美しい。
  • 特設艦船」=民間船(貨客船・貨物船や漁船など)を徴用して海軍所属の艦船にしたもの。
    • 「大脱走」第3話に出てきた新田丸級貨客船(新田丸・八幡丸・春日丸)は海軍に徴用・買収されて最終的には大鷹型航空母艦(大鷹=元春日丸・雲鷹=元八幡丸・冲鷹=元新田丸)となった。春日丸は貨客船としての航路に就航することなく航空母艦になった。改造順の関係で大鷹がネームシップとなった。
      • 日本郵船さんは「春日丸」と呼び、海軍さんは「大鷹」と呼ぶ。
    • 浅間丸も徴用船となったが、彼女にも航空母艦への改造計画が存在した(未成)。
    • 「大脱走」第2話で大阪商船がふれている「ごっつい船」はあるぜんちな丸のこと。航空母艦海鷹となる。
      • 特設航空母艦・航空母艦以外にも艦種は多岐にわたる。
  • 第2話で大阪商船が言及する「優秀船舶建造助成施設
    • 戦時体制で日本政府の行った、船の建造に対する経済的な助成のこと。
      • 建造の補助金の助成を受ける代わりに、戦争有事の際に徴用・改造しやすい設計の船舶が多く造られた。
  • 第2話で日本郵船が頭を抱えて見ているのは橿原丸(のちの航空母艦隼鷹)の概要書。
    • 建造の助成が入るとはいえ、それは必ずしも作りたい・必要な船ばかりではなかった。客船としての採算を考えると日本郵船は必ずしも橿原丸を必要としていなかったようだ。

こうして見ると、大鷹(春日丸)・雲鷹(八幡丸)・冲鷹(新田丸)・海鷹(あるぜんちな丸)は特に小さく見える。

  • 今更だけどそもそも「海軍」と「海運」
    • 「海軍」軍隊。陸じゃない方。ここでは日本国の日本海軍。大日本帝国海軍とも称した。
      • 主要な戦闘艦…軍艦(戦艦・航空母艦・巡洋艦など…)や艦艇(潜水艦・駆逐艦…)、民間船を改造・改装して造られた特設艦船(特設航空母艦・特設巡洋艦・特設病院船・特設監視艇…)を運用した。(若干だが雑役船もあった。)
    • 「海運」軍隊とは(基本)関係ないところで船を動かしている人たち。海上において、旅客や貨物輸送をして商いをしている人びとのこと。
      • 商船…貨客船・貨物船はこちらに該当する。現在のクルーズ船なども海運の事業。当時は物…絹や手紙を運んだり、旅・移民を往来させた。
        • 戦時には「船が足りない!!」ということで、国や軍隊(兵士を外国へ運ぶ陸軍も含む)に徴用されることになってしまった。
          • 徴用されて沈んでしまった、沈んだのに国が補償をしてくれなかった……というのが4話
  • 同じく「軍人」と「軍属」
    • 「軍人」ここでは日本陸海軍の軍人(徴集された兵や武官)。
      • 大佐とか兵士とかのいつものやつ。鉄砲とか持ってる人たち。
    • 「軍属」上記以外で軍隊に属していたいろいろな人びと。
      • 「大脱走」では、兵士や軍物資を運ぶために船を運航した等の軍属たち、徴用された船員を扱った。
        • これも参考に:戦没した船と海員の資料館(神戸市)
  • 五等軍属」(4話より)
    • 戦場という場において、軍属はとかく劣等視され、輸送順位などにおいて「軍人、軍馬、軍犬、軍鳩、軍属」と揶揄された。
      • 「総員退去を令したる後は全く混乱し折角無事泛水せしめたる救命艇を転覆あるいは焼失せしめ、或いは利己に徹する少数の兵隊は逸早く乗艇逃避し、或いは生存船員が必死の救助作業に当たれる際一下士官の如きは船員を叩き殺せ、兵隊が1名助かると暴言をなせり。或いは船首楼を身を以て脱出し火傷のため目の見えぬ船員が同僚より与えられたる浮流物に縋れるを暴力を以てこれを奪い、同船員を遂に死に至らしめられる兵あり。」(『日本商船隊戦時遭難史』)という記録もある。