永遠の哲学2:「ぼくの小さな神さま」

 一九六二年の十月頃、第一潜水隊が編成された二か月後、おやしおのその小さかった身は大きく成長していた。ある朝くろしおが目覚めたら、隣にいたはずのおやしお少年(未だ少し舌っ足らず)はなぜだか知らないが十八歳ほどの青年になっていたのだ。
「あ、くろ、おはよ」と声変わりのした声でそう言った青年は、その後むせ返った後――いきなり成長した声帯は発声に耐えられなかったのだ――いつもどおり、眠気を孕んだ曖昧な笑みとともにくろしおに抱きついてきた。
 一方のくろしおはというと、昨日は隣に居たはずの少年が青年になっていたことへの驚きで、完全に思考が停止していた。
 くろしおは抱きついてきた青年を思いきり振り切り、「いや誰だよ!」と思わず喚いてしまったが、青年がおやしおだということも頭の片隅で理解はしていた。代わりにおやしお少年がいないし。なぜかこいつは裸だし。その代わりにおやしおが昨日着ていた服が散乱しているし。容貌におやしおの面影もなくはない。あの子だっていつかは大きくなるはずだし。
 おそらく戦後初の国産潜水艦であり、初期には故障も多かったおやしおは、余計に成長も変則的だったのだろう。
 いきなり青年の見た目になったおやしおは、中身は相変わらず子供で、いつでもくろしおの後をついてまわった。なんでも一緒。遊ぶのも一緒。映画を観るのも一緒。食事をとるのも一緒。風呂に入るのも一緒で(くろしおは大いに拒否感を示したのだが、おやしおは頑として譲らなかった)、布団で寝るのももちろん一緒だった。

[※後略]

TOP艦船擬人化ぼくの小さな神さま>永遠の哲学2